原始反射とは赤ちゃんの発達段階における正常な反応ですが、時に成長しても残存し、子どもの日常生活や学校生活に困りごとを引き起こすことがあります。モロー反射やガラント反射など10の主要な原始反射をピックアップし、それぞれの反射が引き起こす困りごとと、その対処法となる運動療法を詳しくご紹介します。
〜集中力や姿勢の悩みを運動療育でサポート〜
「授業に集中できない」「椅子に長く座っていられない」「文字がうまく書けない」――そんなお子様の困りごとは、もしかすると残存する原始反射が原因かもしれません。(→研究論文)
赤ちゃんの発達段階における自然な反応である原始反射は、通常は成長とともに消失しますが、何らかの理由で残存すると姿勢やバランス、集中力に影響を及ぼし、小学校生活での困りごとにつながることがあります。
本記事では、学校生活で困りごとを抱えるお子様のために知っておきたい10の主要な原始反射と、その対処法としての効果的な運動療育法をご紹介します。お子様の成長をサポートするための情報とともに、以下の魅力的な内容で構成されています。
1. モロー反射(Moro Reflex)
モロー反射は、赤ちゃんが突然の音や動きに反応して両腕を広げ、その後抱きつくような動作をする反射です。生後3〜4ヶ月までに消失するのが一般的です。驚き反射とも呼ばれ、原始反射の中で最も顕著な反射の一つです。この反射は、赤ちゃんが母親にしがみついて自分の身を守るために発達したものと考えられています。
【関連する困りごと】
・驚きやすく、突然の音や動きに過則に反応するため、教室で集中しにくくなります。
例えば、クラスメートの筆箱が落ちた音や教師の大声に過敏に反応し、その後の授業内容に集中しづらくなる場合があります。
注意ポイント
【推奨される運動療育の方法】
・ゆりかご運動 | 仰向けで両手で頭と膝を抱え、左右にゆっくりと揺れる。身体を丸めることでリラックス効果が期待できます。 |
・交差腕運動 | 立った状態で片腕ずつ胸の前で交差し、反対の肩をつかむ。体の軸が安定するため、自律神経が整います。 |
・クッションボール | クッションやボールの上で仰向けに横たわり、全身をゆっくりと伸ばします。 |
2. 非対称性緊張性頸反射(ATNR, Asymmetrical Tonic Neck Reflex)
非対称性緊張性頸反射(ATNR)は、赤ちゃんの頭を横に向けると、向けた側の腕と脚が伸び、反対側の腕と脚が曲がる反射です。通常、生後6ヶ月ごろまでに消失します。フェンシング反射とも呼ばれ、視覚と運動の協調に関わります。
【関連する困りごと】
・書字や運動時に手足の動きがぎこちなくなり、筆記や作業が遅くなる。
例えば、ノートに字を書く際に、頭の向きによってペンの動きが左右されてしまうため、書字が遅くなったり、文字が歪んだりします。また、ボールを投げたりキャッチしたりする運動も不器用になりがちです。
注意ポイント
【推奨される運動療育の方法】
・クロール運動 | 仰向けで頭を左右に回しながら、腕と脚をクロールのように交互に動かす。腕と脚の動きがスムーズになります。 |
・スパイダー運動 | 手足を交差させながら、うつ伏せの状態で片方ずつ持ち上げる。左右の手足の協調性を高めます。 |
・仰向け姿勢で頭の回転運動 | 仰向けで頭を左右にゆっくりと動かす。頭の動きに対して手足の反射を軽減する訓練になります。 |
3. 対称性緊張性頸反射(STNR, Symmetrical Tonic Neck Reflex)
対称性緊張性頸反射(STNR)は、首を上下に動かすと腕と脚が反対の動きをする反射です。首を前に曲げると腕が曲がり、脚が伸びます。首を後ろに反らすと腕が伸び、脚が曲がります。生後6〜9ヶ月ごろに出現し、約11ヶ月で消失するのが一般的です。
【関連する困りごと】
・座っているときに背筋を伸ばしづらく、猫背の姿勢になりがちです。
・運動時にも前屈みや反りすぎなどでバランスが取れなくなり、歩行やランニングがぎこちなくなることがあります。
・教室で長時間座るときに、姿勢が崩れやすく集中力が低下します。
注意ポイント
STNRが残存すると、頭を上下に動かす際に腕や脚が反対の動きをするため、机に向かうときの姿勢が不安定になります。例えば、頭を前に曲げると腕が曲がり、脚が伸びてしまうため、机に向かう際に姿勢を保つのが難しくなります。
【推奨される運動療育の方法】
・四つん這いの前後運動 | 四つん這いの状態で、前後に身体を揺らす。姿勢保持に必要な筋力を養います。 |
・四つん這いの左右運動 | 四つん這いの状態で、左右に身体を揺らす。左右のバランス感覚が向上します。 |
・キャット・ドッグ運動 | 四つん這いの状態で、猫の背中のように丸めたり、犬の背中のように反らしたりする。反射を抑制し、柔軟性を高めます。 |
4. 緊張性迷路反射(TLR, Tonic Labyrinthine Reflex)
緊張性迷路反射(TLR)は、頭を前に曲げると全身が前屈し、頭を後ろに反らすと全身が伸びる反射です。通常、生後3ヶ月から1年以内に消失します。この反射は、赤ちゃんの平衡感覚と姿勢維持に影響を与えます。
【関連する困りごと】
・姿勢維持が難しく、座っているときに前屈みや後ろに反る姿勢になりやすいです。
・歩行や運動時にもバランスが取りにくくなり、体育の授業での縄跳びや走る動作が苦手になります。
授業中の姿勢も崩れやすく、集中力の低下が見られることがあります。
注意ポイント
【推奨される運動療育の方】
・仰向けでの屈伸運動 | 仰向けで全身を伸ばし、次に全身を丸める。柔軟性とバランス感覚を高めます。 |
・四つん這いの屈伸運動 | 四つん這いで背中を丸めたり反らしたりする。全身の柔軟性が向上します。 |
・バランスボール運動 | バランスボールの上で身体を伸ばしたり丸めたりする。全身の姿勢保持力を養います。 |
5. ガラント反射(Galant Reflex)
ガラント反射は、背中を片側に触れると、その触れた側に体を曲げる反射です。通常、生後6ヶ月までに消失します。脊髄反射の一種であり、赤ちゃんの脊椎の動きを確認するための重要な指標です。
【関連する困りごと】
・座っているときに落ち着かず、身体を動かし続けるため、授業に集中しにくいです。
例えば、椅子に座っている間に背中が服や椅子の背もたれに触れることで反射が刺激され、無意識に身体を動かし続けてしまいます。
注意ポイント
【推奨される運動療育の方法】
・背中を伸ばす運動 | うつ伏せで背中を反らし、手足を持ち上げる。背中の筋肉の緊張を和らげます。 |
・羽ばたき運動 | 仰向けに寝て、手足を同時に広げていきます。呼吸と連動させながらゆっくり元に戻します。 |
・クロスオーバー運動 | 片方の腕と脚を交差させて左右交互に動かす。身体の左右バランスを整えます。 |
6. バビンスキー反射(Babinski Reflex)
バビンスキー反射は、足の裏をなぞると足の指が開いて足首が曲がる反射です。通常、生後1〜2年以内に消失します。足底反射の一種であり、赤ちゃんの脊髄や中枢神経の発達状態を評価するために用いられます。
【関連する困りごと】
・歩行や運動時にバランスが取りにくく、転びやすいです。
例えば、授業でのランニングや体育の時間において、正しい足の動きができず、歩くときに足元が不安定になるため転倒しやすくなります。
注意ポイント
【推奨される運動療育の方法】
・足の指の屈伸運動 | 足の指を手でつまんで開いたり閉じたりする。指先の柔軟性が向上します。 |
・足裏マッサージ | 足の裏をマッサージし、リラックスさせる。足底筋をリラックスさせます。 |
・足踏み運動 | 床に足裏をつけてリズミカルに足踏みする。足の裏全体でしっかりと床を捉える感覚を養います。 |
7. ランドウ反射(Landau Reflex)
ランドウ反射は、赤ちゃんをうつ伏せに抱き上げると、頭を上げて背中を反らせる反射です。通常、生後6ヶ月ごろに出現し、12ヶ月から2年までに消失します。この反射は背筋や首の筋肉の発達と密接に関連しています。
【関連する困りごと】
・猫背になりやすく、集中力が低下します。
例えば、授業中に机に向かうときに背筋を伸ばすのが難しく、猫背の姿勢になりやすいため、長時間座っていると疲労感が増し、集中力が落ちやすくなります。
注意ポイント
【推奨される運動療育の方法】
・背筋運動 | うつ伏せの状態で、両腕と両脚を持ち上げて背筋を伸ばす。背筋の筋力を高めます。 |
・バランスボール運動 | バランスボールの上でうつ伏せになり、背筋を伸ばす。柔軟性と筋力を向上させます。 |
・床上のスーパーマン運動 | うつ伏せの姿勢で、手足を持ち上げるように反らせる。ランドウ反射の発達を促進します。 |
8. 足踏み反射(Stepping Reflex)
足踏み反射は、赤ちゃんを直立させて足の裏を床に触れさせると、歩くように足を交互に動かす反射です。新生児歩行とも呼ばれます。通常、生後2ヶ月ごろに消失します。
【関連する困りごと】
・姿勢保持が困難で、長時間の立位や歩行が疲れやすいです。
例えば、体育の授業でのランニングや縄跳びでバランスが取れず、正しい姿勢で歩行ができないため疲労しやすくなります。
注意ポイント
【推奨される運動療育の方法】
・直立姿勢での足踏み運動 | 両足を交互に上げ下げする。正しい歩行姿勢を養います。 |
・階段の上り下り運動 | 階段を1段ずつ上り下りする。足の裏全体でしっかりと床を捉える感覚を養います。 |
・片足立ち運動 | 片足で立った状態でバランスを保つ。平衡感覚を高め、姿勢保持力を向上させます。 |
9. 口唇反射(Sucking Reflex)
口唇反射は、赤ちゃんの唇に触れるものに対して自動的に吸い込む反射です。通常、生後4ヶ月ごろまでに消失します。吸啜反射とも呼ばれ、哺乳に重要な役割を果たします。
【関連する困りごと】
・口に何かを入れたがる行動が続き、鉛筆や消しゴムを噛むなどの癖が出ます。
例えば、授業中に鉛筆を噛んでしまうことが多くなり、注意がそれてしまうことがあります。
注意ポイント
【推奨される運動療育の方法】
・口腔運動 | 唇をしっかり閉じたり開いたりする運動。唇周りの筋力を養います。 |
・ストローでの吸い込み運動 | ストローで水やジュースを吸う。吸啜の動きを訓練します。 |
・歯磨き運動 | 歯ブラシでしっかりと歯を磨く。口腔内を清潔に保ちながら反射を抑えます。 |
10. ペレーズ反射(Pérez Reflex)
ペレーズ反射は、背骨に沿って尾骨側から頭側にかけて刺激すると、背中を反らし、足が屈曲する反射です。通常、生後1年以内に消失します。脊髄反射の一種で、赤ちゃんの脊髄と背中の筋肉の状態を評価するために用いられます。
【関連する困りごと】
・おむつやズボンのウエスト部分が刺激となり、集中しにくいです。
例えば、授業中に椅子に座った状態で服のウエスト部分が背中に触れることで反射が刺激され、姿勢が崩れやすくなります。
注意ポイント
【推奨される運動療育の方法】
・背中を伸ばす運動 | うつ伏せで背中を反らし、手足を持ち上げる。背中の筋力を高めます。 |
・背骨マッサージ | 背骨に沿ってマッサージする。背中の緊張をほぐします。 |
・バランスボール運動 | バランスボールの上でうつ伏せになり、背中を伸ばす。柔軟性と筋力を向上させます。 |
原始反射の残存は、お子様の日常生活や学校生活での困りごとにつながることがあります。本記事でご紹介した10の原始反射とその対処法を理解し、効果的な運動療育を取り入れることで、姿勢や集中力の改善に役立てましょう。お子様の成長には個人差がありますので、焦らずに取り組むことが大切です。親子で一緒に楽しく運動しながら、健やかな学校生活をサポートしていきましょう。児童デイサービスCREDOへはお気軽にご相談ください。