原始反射とは、生まれつき備わっている無意識の反射行動で、新生児期には重要な役割を果たしますが、通常は成長とともに消失します。しかし、残存すると協調運動や姿勢保持、学習能力、注意力などに影響を与え、日常生活に困難が生じることがあります。本記事では、協調運動に影響を与える代表的な原始反射を紹介し、それぞれの特徴や具体例を通して理解を深めます。日常生活で見られる症状や残存確認の方法、運動療育でのアプローチも解説しますので、子どもの発達に悩む親御さんはぜひご覧ください。
原始反射とは?
ポイント
原始反射は、新生児が生まれながらに持つ無意識の反射行動です。たとえば、吸てつ反射やモロー反射は、赤ちゃんが生き延びるための重要な反射行動です。通常、3〜12か月で消失しますが、何らかの原因で残存すると、運動機能や学習能力に影響を与えます。
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なぜ残存するのか
残存する理由には、出産時のストレスや低酸素症、新生児期の感覚刺激不足、ストレスなどが考えられます。
残存の影響
協調運動、注意力、学習能力、情緒などの分野で困難が見られることがあります。原始反射が残存している子どもは、姿勢保持や協調運動が難しく、学習や日常生活での困難を経験することがあります。
協調運動に影響を与える代表的な原始反射
非対称性緊張性頸反射(ATNR)
ATNR
非対称性緊張性頸反射(ATNR)は、赤ちゃんの頭を一方向に向けたときに、顔の向きにある腕と脚が伸び、反対側の腕と脚が曲がる反射です。これにより、赤ちゃんは仰向けで「フェンシングポーズ」をとるようになります。この反射は、胎児期や新生児期には重要で、産道を通る際の助けになり、手と目の協調性の発達に寄与します。通常、生後6か月までに消失します。
残存の影響
ATNRが残存すると、子どもは両手を同時に使うことが難しくなり、視覚と運動の協調ができず、身体の左右の動きがバラバラになります。特に、書く、ボールをキャッチする、靴紐を結ぶなどの動作に困難が生じます。また、視覚追従や姿勢保持にも影響し、首を一方向に向けたときに、無意識に腕や脚が動いてしまうことがあります。
具体例
たとえば、ペンを持つ手が不安定で文字がうまく書けない、食事中にスプーンやフォークをうまく使えない、両手を使ってボールをキャッチするのが難しいなど、日常生活や学校生活に支障をきたすことがあります。また、首を一方向に向けたままにすると、腕が無意識に伸びたり曲がったりするため、子どもはバランスが取れずに転んでしまうこともあります。
緊張性迷路反射(TLR)
TLR
緊張性迷路反射(TLR)は、前方または後方への傾きに応じて筋緊張が変わる反射です。首を前に傾けると、全身の筋肉が緊張して体が曲がり、逆に首を後ろに反らすと筋肉が弛緩して体が伸びます。新生児期においては、赤ちゃんの姿勢と動きを制御するために重要で、生後4か月頃までに消失します。
残存の影響
TLRが残存すると、前方に傾いたときに筋緊張が増し、後方に傾いたときに筋緊張が低下するため、姿勢保持が難しくなります。たとえば、前かがみになると筋肉が硬くなり、後ろに傾くと筋肉が弛緩しすぎて姿勢が崩れます。これにより、子どもは座っているときに背もたれに深くもたれるか、前かがみになってしまうことが多く、集中力の維持が困難になります。
具体例
たとえば、椅子に座っているときに姿勢を保つのが難しく、頻繁に前かがみになったり、背もたれに深くもたれたりします。歩いているときも、バランスを崩しやすく、転倒することが多くなります。また、首を前に傾けると筋肉が緊張しすぎて、床に座っているときにうまく立ち上がれなくなることがあります。
対称性緊張性頸反射(STNR)
STNR
対称性緊張性頸反射(STNR)は、首の前後の動きに応じて腕と脚が反対の動きをする反射です。首を前に傾けると、腕が曲がり、脚が伸びます。逆に、首を後ろに反らすと、腕が伸び、脚が曲がります。この反射は、四つ這いでの姿勢を取るために重要で、生後8〜11か月頃に消失します。
残存の影響
STNRが残存すると、這う動作や四つ這いでの姿勢に影響し、上体と下半身の協調が取れなくなります。たとえば、首を前に曲げると腕が曲がり、足が伸びます。逆に、首を後ろに反らすと腕が伸び、足が曲がります。このため、子どもは四つ這いでの姿勢が取りにくくなり、這う動作がうまくできません。また、椅子に座っているときに上体がぐらつき、集中力が続かないこともあります。
具体例
たとえば、体育の授業で這う動作がうまくできない、椅子に座っているときに上体がぐらついて姿勢が保てないため、集中力が持続しません。また、四つ這い姿勢を取るのが難しいため、歩行時のバランスが悪くなり、転倒することもあります。
残存する原始反射の確認方法
ATNRの確認方法
非対称性緊張性頸反射(ATNR)が残存しているか確認するためには、子どもに四つ這いになってもらい、首を左右にゆっくりと動かしてもらいます。このとき、手足の動きに注目します。具体的には、子どもの首を一方向に向けたときに、顔の向きにある腕と脚が伸び、反対側の腕と脚が曲がるかどうかを観察します。
チェックポイント
首を向けた方向の手足が伸び、反対側の手足が曲がる動作が出る場合、ATNRが残存している可能性があります。たとえば、子どもの首を右に向けると、右手と右足が伸び、左手と左足が曲がります。この動作が顕著に見られる場合、日常生活での協調運動に影響を及ぼしている可能性があります。注意して観察し、首の動きによる手足の反応に違和感を覚えたら専門家に相談しましょう。
TLRの確認方法
緊張性迷路反射(TLR)の残存を確認するためには、子どもに仰向けまたはうつ伏せになってもらい、首をゆっくりと前後に動かします。首の動きに応じて、全身の筋緊張がどう変化するかを観察します。
チェックポイント
仰向けの場合、首を前に傾けると全身の筋肉が緊張して体が曲がり、逆に首を後ろに反らすと全身の筋肉が弛緩して体が伸びます。うつ伏せの場合、首を上に反らすと筋緊張が増し、前に傾けると筋緊張が低下します。これらの動作で筋肉が適切に反応しない場合、TLRが残存している可能性があります。首の動きと筋緊張の関係をよく観察し、違和感がある場合は専門家に相談してください。
STNRの確認方法
対称性緊張性頸反射(STNR)の残存を確認するためには、子どもに四つ這いになってもらい、首を前後にゆっくりと動かしてもらいます。首を前に曲げる、または後ろに反らす動作をする際に、手足がどのように反応するかに注目します。
チェックポイント
首を前に曲げると腕が曲がり、足が伸びます。逆に首を後ろに反らすと腕が伸び、足が曲がります。この反応が見られる場合、STNRが残存している可能性があります。たとえば、首を前に曲げたときに、腕が曲がり、足が伸びる動作が見られると、四つ這い姿勢がうまく取れず、這う動作ができなくなることがあります。首の動きと手足の反応に違和感がある場合、専門家に相談することをおすすめします。
原始反射の残存に対する運動療育のアプローチ
統合トレーニング:協調運動を高める最強エクササイズ!
統合トレーニングは、残存する原始反射を統合し、協調運動能力を向上させることを目的としたアプローチです。子どもの運動発達を助け、姿勢保持や視覚と運動の協調をサポートします。親御さんが子どもの運動療育をサポートする方法として、簡単に取り入れることができるエクササイズを紹介します。
具体的なアプローチ
以下のトレーニングを通じて、原始反射の残存を統合し、神経系の発達をサポートします。
- クロスパターンの運動:左右の手足を交互に動かす運動です。四つ這いの姿勢で、右手と左足を前に出し、次に左手と右足を前に出すという動作を繰り返します。これにより、左右の脳半球を統合し、手足の協調性を高めます。
- リズミカルな体幹運動:座って体を左右にひねる、前後に揺らすなど、リズミカルな動作を取り入れます。腰をひねる運動は、姿勢保持と体幹の安定に効果的です。
- ビジョントレーニング:目で物を追いかける運動です。親御さんがボールやおもちゃを持ち、子どもに視線で追いかけさせます。視覚と運動の協調をサポートします。
親御さんが一緒に楽しみながら行うことで、子どもの運動発達を促進し、協調運動能力を高めることができます。
感覚統合遊び:親子で楽しむ発達サポート
感覚統合遊びは、感覚刺激を通じて神経系の発達を促すアプローチです。遊びの中でさまざまな感覚刺激を与えることで、子どもの感覚統合力を高めます。原始反射の統合にもつながるため、運動発達に悩む親御さんにおすすめです。
具体的なアプローチ
以下の遊びを通じて、感覚統合力を高めましょう。
- ブランコ遊び:公園などでブランコに乗り、前後に揺らす遊びです。バランス感覚とリズム感を養うのに効果的です。
- バランスボール:バランスボールに座り、前後や左右に体を揺らします。バランス感覚と体幹の安定性を高めます。
- 感覚トンネル:柔らかいトンネル型の遊具を這って進む遊びです。這う動作を通じて、手足の協調運動能力を向上させます。
親子で一緒に楽しみながら感覚統合遊びをすることで、子どもの感覚発達を促進し、協調運動力の向上につなげることができます。
バランストレーニング:姿勢保持と体幹強化に効く!
バランストレーニングは、体幹と四肢のバランス能力を高め、協調運動をサポートするアプローチです。姿勢保持に困難がある子どもにとって、バランス力の向上は非常に重要です。親御さんが家庭でもできるトレーニングを取り入れてみましょう。
具体的なアプローチ
以下のトレーニングを通じて、バランス能力を高めましょう。
- バランスボード:バランスボードに乗って体を左右に傾け、バランスを保ちます。バランス感覚と体幹の安定性を鍛えます。
- 平均台:平均台の上を歩くことで、バランス感覚を養います。家庭では床にテープを貼ってその上を歩く「擬似平均台」を使うと簡単です。
- トランポリン:小型のトランポリンで跳ねる遊びです。跳ねながらバランスを取ることで、全身の筋肉とバランス感覚を鍛えます。
これらのバランストレーニングを取り入れることで、子どもの姿勢保持と協調運動能力を向上させましょう。
FAQ:よくあるご質問
Q1: 原始反射が残存することで子どもにどのような影響がありますか?
A1: 残存する原始反射は、協調運動や姿勢保持、学習能力、注意力などに影響を与えます。例えば、文字を書く際に腕が無意識に動いてしまう、姿勢を保つのが難しい、集中力が続かないなどの困難が見られます。残存する原始反射は、日常生活や学習での困難を引き起こすため、早期に統合することが重要です。
Q2: 原始反射の残存はどのように確認できますか?
A2: 各反射ごとに確認方法があります。例えば、非対称性緊張性頸反射(ATNR)は、子どもが四つ這いになり、首を左右に動かしたときに手足の動きが反応するかどうかで確認できます。緊張性迷路反射(TLR)は、仰向けやうつ伏せで首を動かすことで確認します。専門家の指導のもとで行うことをおすすめします。
Q3: 原始反射の残存を改善するために家庭でできることはありますか?
A3: 統合トレーニングや感覚統合遊び、バランストレーニングなどを家庭でも取り入れることができます。たとえば、クロスパターンの運動、バランスボードや平均台を使った遊びなどが有効です。ただし、子どもの状態に合わせた適切なアプローチが必要なため、専門家に相談することが重要です。
Q4: 原始反射の残存はいつまでに改善すべきですか?
A4: 年齢や個人差があるため一概には言えませんが、日常生活や学習に支障が出ている場合は早期のアプローチが望ましいです。原始反射の残存は成長とともに自然に消失することもありますが、放置すると困難が長引く可能性があるため、専門家と相談しながら改善を目指しましょう。
Q5: 運動療育はどのような場所で受けられますか?
A5: 放課後等デイサービスや発達支援施設、運動療育専門の施設などで受けられます。子どものニーズに合わせて施設を選び、専門家と協力しながら支援を進めると良いでしょう。まずは最寄りの自治体や医療機関、専門家に相談し、お子さまに適した施設を探してみてください。
原始反射の残存は、協調運動や姿勢保持、学習能力に影響を与えることがあります。しかし、統合トレーニングや感覚統合遊び、バランストレーニングなどのアプローチを取り入れることで、子どもの発達を効果的にサポートできます。お子さんの発達に不安がある方は、専門家のアドバイスを受けつつ、家庭で楽しく運動療育に取り組んでみてください。不明点や相談があれば、ぜひCREDOにお気軽にお問い合わせください。